追悼:高階秀爾先生
2024.10.24
大原芸術財団代表理事 大原芸術研究所所長の高階秀爾先生が、永眠されましたことをここに深く哀悼の意を表します。
高階先生は、幅広い視野と高い専門性で、長年にわたり大原美術館の発展、そして、新しく誕生した大原芸術研究所の設立に多大なる貢献をなさいました。大原芸術研究所の創設は私たちの財団のさらなる可能性と成長の道を切り拓くものとなりました。
高階先生は、大原家旧別邸有隣荘での特別展の開催、若手作家支援となるARKO(Artist in Residence Kurashiki, Ohara)を始めとする現代作家との交流事業、チルドレンズ・アート・ミュージアムに代表される、年齢や立場を問わずミュージアムというプラットフォームで人々がアートと関わる場の創出など、常識にとらわれない、それでいて守るべきところは守るという高階哲学を自らの活動を通して示しながら財団を20年にわたり導いてくださいました。高階先生とともに歩んだ道のりは他に類を見ないものであり、世に誇るべきものだと確信しております。
私自身、何もわからない新米理事長のころから、多くのことを教えていただき、温かく導いていただきました。私などはとてもかなわない豊かな経験と深い知識を備えた高階先生でしたが、決して偉ぶることなく、財団運営について話をする際はいつも私と同じ目線で向き合ってくださいました。その姿勢は私だけでなく、すべての財団職員に対しても同様でした。職員一人ひとりの挨拶にも必ず足を止め、笑顔で応えてくださる姿は、私たち全員の心に深く刻まれています。そしてその姿勢は美術館を訪れるすべての人に対しても貫かれており、高階先生はその謙虚さと優しさで多くの人々に慕われていました。
「こんなことを聞くのはとてもお恥ずかしいのですが・・・」と言いながら高階先生に教えていただきたいことがまだまだたくさんあります。それなのに、もう高階先生の優しく温かな声で「それはね、あかねさん・・・」と教えていただくことは叶わず、これからは先生が遺されたご著書やご講演録を頼りに自分で答えを見つけなければならないのかと思うと、寂しさでいっぱいになります。それでも、高階先生が私たちと歩んでくださったことに感謝し、高階先生が教えてくださったことを胸に刻み、高階先生が築かれたこの財団がこれからも多くの人たちとともに歩めるように、そして、いつかあちらの世界で高階先生にお会いするときに「よくがんばりましたね」と笑顔で言っていただけるように、職員みんなと一緒に、これからも大原芸術財団の歩みを進めて行きたいと思います。
高階先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
公益財団法人大原芸術財団代表理事 大原あかね
高階秀爾先生のご逝去に心より哀悼の意を表します。
今思い起こされるのは、学生の頃から先生のご指導を受け、その謦咳に接し、勤め始めてからは学会や出版などで仕事をご一緒した、50年近くにわたる長い長い月日です。
東京やパリでお目にかかるたびに、その颯爽とした風貌、優しい笑顔、艶のある語り口で皆を魅了されるご様子に、ああいつもの先生だと、
どこか安心感を覚える自分がいました。きっと心の支えだったのでしょう。
それが、このような日を迎えることになるとは、突然の訃報にうろたえるばかりです。これからは、博学を超えた知の饗宴ともいうべきお話を伺うことも、シンポジウムでの水際だった鮮やかな司会ぶりに接することも、何を論じられても明快達意のエレガントな名文を新しく読むこともできないなんて、未だに信じられない思いです。われわれは偉大な文化人を失ったのです。
気がつけば、昨年7月に先生の後を継ぎ、大原美術館館長に就任するという運命が待っていました。前館長による時代に先んじた斬新な事業の足跡に、日々圧倒される思いです。しかし、私もまた歴史ある大原美術館を発展させ、また先生が創設された大原芸術研究所を育てて行かねばなりません。天国の園から先生に見守っていただきながら。
謹んで高階秀爾先生のご冥福をお祈り申し上げます。
公益財団法人大原芸術財団 大原美術館館長 三浦 篤